山陰の輝く人物にインタビュー
山陰の元気人

山陰で頑張る人を取材し、紹介しています。



連載
松江をもっと面白くする まちづくりコンサルタントあり!
(株)計画技術研究所 松江事務所 所長
田中隆一さん

(VOL.26)


 まちづくりって、何でしょう。近代的なビルをいっぱい建てるってこと?障害者や高齢者向けの施設をいっぱい作るってこと?でも、それって何か違うな、と思いますよね。

 (株)計画技術研究所・松江事務所の所長、田中隆一さんの話を聞いて、その思いはますます強くなりました。
  田中さんは、現場主義のまちづくりコンサルタント。これまでの取り組みを聞いていくうち、「素敵な町って、一般の人、障害のある人、お年寄りの区別なく、みんなにやさしく、みんなに楽しいってことなんだ」と改めて思いました。

 田中さんがこれまでやってきたこと、そしてやろうとしていることを、披露してもらいました。

田中隆一さんの顔写真
(株)計画技術研究所・松江事務所で所長を務める田中隆一さん。レトロなビル内のオフィスで話を聞きました。いろんなことを手がけているだけあって、お忙しそうでした。

 
◆◇元気人プロフィール

氏名
田中 隆一
所属
計画技術研究所 松江事務所 所長
TEL
0852-32-8645
職業
まちづくりコンサルタント
住所
松江市白潟本町33出雲ビル4F
URL
http://homepage1.nifty.com/rtanaka

町の「?」を「!」に変える仕事

 「この町には素敵な建物がたくさんあるのに、どうしてもっと活用しないんだろう?」
 「町並みはすごく良いのに、なんでこんなに歩道が整備されていないの?」
 いろんな土地を訪れた時、そう感じたことはないだろうか。名だたる観光地に行き、ここって本当に観光都市?と首を傾げたことがありはしないか。

 そんな、町にはびこる「?」を、「!」という具合に解決している人のひとりが、田中さんだ。
 計画技術研究所という企業のスタッフでありながら、松江のまちづくりを考え行動する市民団体「まちづくり塾」(http://mjuku.hp.infoseek.co.jp/)のコアメンバーであり、まちづくり塾の一部である「まちかど研究室」の一員。そして、7月にNPO認証を取得する「プロジェクトゆうあい」(http://shimane-ud.org/pjui)の中心メンバーの一人でもある。とても多彩だ。

 もともと島根の人ではなく、計画技術研究所のスタッフとして、仕事で松江にやってきた。以後、「松江での仕事が継続してあったので」という理由で、松江事務所が立ち上がり、本人も松江に居着くことに。
 ともあれ、いまや、企業人として、市民として、松江のまちづくりにどっぷり浸かっている。

田中さんの多彩ぶりを物語る名刺 「どの名刺出そうかな…」。初めてお会いしたとき、そう言いながら出してこられた名刺、3枚。多彩ぶりが分かります。
■きっかけは、まちづくり塾

 その発端となったのは、8年前に松江市の働きかけで発足した「まちづくり塾」。市の都市計画づくりに、市民にも参加してもらおうというものだ。田中さんは、その立ち上げに携わった。

 3年後、まちづくり塾は行政の手を離れ、純粋な市民団体として新スタート。学者、学生、企業人、一般市民、いろんな立場、肩書きをもつ松江市民が集まる、ゆるやかな団体ができあがった。もちろん、田中さんもメンバーの一人として参画。市民の視点から、おもしろい事業が次々と立ち上がった。

 「いろいろやりましたよ。『だがぁ』と名付けたエコマネー、商店街でのタウンモビリティ(電動スクーターを使った、障害者や高齢者の外出支援)、蓬莱荘という和風の老舗旅館で開いたお茶会etc」。
 どれも、松江の良さを活かしながら、これまで不便、不十分だったところを解消していこうという取り組みだ。

 「メンバーの誰かが、これやろう、と言ったことを、実際にやってきた」。
 いまでも、ひらめいたら即実行、というフットワークの軽さで、ユニークなプロジェクトを生んでいる。

 そんな流れの中で、昨年、ある大きなプロジェクトが実を結んだ。「どこでもバスブック」という小さな冊子だ。

田中さんが手がけてきたパンフや冊子
 田中さんが関わった取り組みの数々。まちの活性化からバリアフリー化まで、幅広いです。でも、少しも堅苦しくなく、なんだかワクワクするような内容ですよ。
■あったらいいなの「どこでもバスブック」

 「どこでもバスブック」は、まちかど研究室が発行する、松江のバス路線を網羅したガイドブックだ。小さいけれど、これなかなか、すぐれものだ。

 「例えば、ここからタクシーを使わず、島根大学方面に行きたいとします。どうします?」(田中さん)

 松江市白潟本町にある出雲ビル4階のオフィスで、田中さんはこう言った。記者の答えは「?」。だって、地元民ではない上、どんな公共交通機関が通っているかも、ぜんぜん分からない。

 「この近くにバス停があって、そこからバスが出ているんですよ。ほら」。そう言って田中さんは、バスブックをパラパラめくる。すると、バスの路線、時刻表、目的地までの所要時間まで詳しく書いてあるページが出てきた。

 「松江にバス会社が何社あるかなんて、知らないでしょう。でも、この冊子を見れば分かるし、行きたい場所にバスで行くにはどうしたらいいか、どのくらい時間がかかるか、分かりますよ」(田中さん)

 松江市内には、バスの路線がたくさんある。町の「足」として十分使えるのに、肝心の情報が不足している。そこに目をつけて作ったのが、バスブック。「こういうのが欲しかった!」という市民の声が聞こえてきそうだ。

 バスブックは好評を博し、もうすぐ第三号が発行される予定。また、これをもとにしたホームページ「どこでもバスネット(http://www.docodemo-bus.net)も開設されている。

どこでもバスブック
 松江市民、必携のバスブック。これがあれば、車がなくたって、松江中のいたるところに行けます。松江には、こんなにバス路線があったんだ、と思うくらい。もちろん、観光客にとってもお役立ちの一冊です。
■出会いが生んだ新たな事業

 こんな便利冊子を手がけながら、田中さんは、バリアフリーなまちづくり、という分野に造詣が深い。
 実はいま、計画技術研究所を中心に、視覚障害者に役立つ新しいシステムの実用化が進められている。名付けて「まちなか音声案内システム」。このシステムの開発には、ある人物との出会いが欠かせなかった。

 「三輪利春さんとの出会いは、とても大きかった」。
 三輪さんは、ハンディキャップを持つ人たちが、インターネットやパソコンを使って社会参加するのを支援するグループ「プロジェクト23」の代表。そして、盲導犬を連れて歩く、視覚障害者でもある。(山陰の元気人vol.3で登場。http://www.tm-21.com/genkijin/miwa/genkijin_miwa.html)。

 「三輪さんは、障害者の立場から、情報をうまく利用したバリアフリーを目指している人なんです」。

 この出会いが育んだ「まちなか音声案内システム」は、もし実現すれば、町が今以上に面白い場所になる、ユニークなものなのだ。

■障害者のためだけではない

 このシステムで使うのは、電波を発信する音声ボックスと、その電波を受けるラジオ。例えば、ホテルのエレベーター口に音声ボックスをつけておき、ラジオを近付けると「ここはエレベーターです」と案内が流れる。
 例えば、音声ボックスを商店街のいたるところに設置しておいて、そこにラジオを近付けると、「○□店のパンがいま焼き上がりました」と音声が流れる。

 視覚障害者にとって、これはとても有益なシステムだ。町のバリアフリーがますます進むに違いない。だが田中さんは言う。

「このシステムのいいところは、障害者のためだけにあるシステムではない、というところです」。

 昨年、鳥取県・境港にある水木しげるロードで、このシステムの実験導入を行った。ストリートにある妖怪のオブジェに音声ボックスを取り付け、ラジオを近付けるとオブジェの紹介が流れる、という仕掛けを、多くの人に使ってもらった。

 「これは、障害者に限らず、一般の人にも楽しんでもらえました。みんなに楽しいってところが、このシステムのミソなんですよ」

 まさにユニバーサルデザイン。これが町中に普及すれば、人の動きも、ビジネスも変わってくる。新しい地域の姿が生まれるかもしれない。待ち遠しいシステムだ。


  田中さんはいま、システムの実用化に向け、詰めの作業をしている。松江の町がもっと楽しくなるのは、そう遠いことではなさそうだ。

 松江は、いいところだ。いま風のビルやお店が増える一方で、古い町並みがちゃんと残っている。もし、古きよき昔の町並みを生かしつつ、誰もにやさしく、誰もがほしい情報を即座に手にできる町になれば、きっともっと素敵なところになるだろう。田中さんや、まちづくりに取り組む市民といっしょに、あなたも素敵な町を作ってみませんか?


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