■未脱脂羊毛(グリージーウール)との出会い
手つむぎ機
もともと色やデザインを扱うことが好きだったということもあり、自分の感性を生かし、一生やっていける創作活動とは何だろうと模索する中で、"糸"に魅せられウールの基本を学びたいと本場のオーストラリアへ留学。そこで約1年間、織りの指導と研究を行いました。
その際に、羊から刈り取った原毛を洗うだけで脂肪分を抜かない"未脱脂羊毛"があることを知り、そしてある日、日常の手仕事として羊の毛を紡ぐ老女の姿を見つけ、「これだ!」とひらめいたのでした。
■未脱脂羊毛(グリージーウール)の特徴
未脱脂羊毛は人間の体毛に近い性質を持つと言われており、肌にもやさしい。その原毛を、感触を確かめるために少し触っているだけで、カサカサだった指先もとしっとりしてきます。
未脱脂羊毛は文字通り、脂分を抜いていないので、素材そのものが丈夫で、汚れがつきにくく、保温性、保湿力、防水性に優れています。素材のよさが残っているだけに虫もつきにくいです。
汚れにくい素材なので、ほとんど洗わなくてもよいですが、洗うときは手洗いをします。脂分が残っているためクリーニングには出しません。大切に着れば100年は着れるので、祖父母から子孫まで着継がれるなんていうのも、とても素敵ですね!
■創作活動
タペストリーとは綴れ織り(つづれおり)またはゴブラン織りなどと呼ばれる技法による室内用壁面装飾織物。その制作期間は手のかかるものだと1年以上かかります。
オーストラリアやニュージーランドから未脱脂の原毛を輸入し、普通の洗剤をつかい手洗いで汚れだけを落とします。脂分が抜けきらないよう、臭いが残らないよう洗いあげます。
オーストラリアでは羊を輸出用に飼育しているため、羊用のシャワリング施設があるので、輸入した時点でも原毛はきれいです。羊一頭で4~5㎏の原毛がとれます。セーターですと4~5枚分です。
羊は一頭一頭違うので、その羊の毛質によって用途を変えますが、フェルトやカーペットまで作れます。
ちなみに牛、猫、犬の毛は臭いが残りますが、羊の原毛には臭いはほとんどありません。犬の毛で糸を紡ぐこともできます。不思議なことに犬の毛は年毎に白くなっていきます。
左下の写真は犬の毛をつむいでいるところです。
染色方法は紡ぐ前に染める先染めの手法です。原毛は羊の種類によって色彩がとても豊かです。紡ぐ前に染めるので、一つの色でも何万と言う色のグラデーションが生まれ、二つと同じものはありません。
タペストリーに使う糸を紡ぐときには、もちろんデザインが先ですが、織ったときそのデザインになるように「ここから何センチのところに何センチの何色を・・・」など、考えながら紡ぎます。
デザインを考えるのに時間がかかりますが、それが決まってから、色を決め染色をして紡ぐ、そこまでがだいたい仕事の7割です。
年間のスケジュールはだいたい2年前位から決まっているのでそれに合わせて制作活動をします。年間400点くらいのペースで、毎年開催する4ヵ所ぐらいの作品展で販売をしています。あとは注文をいただいて作ります。
■高齢化が進む川本町の生きがい対策
現在、川本町の国道261号線沿いに建つ「インフォメーションセンターかわもと」の中に、手つむぎ工房ショップの「ダ・カーポ」があります。そこでは町民の方たちが手つむぎで作られたセーターや帽子などの作品が展示即売されており、好評をよんでいます。
ことの始まりは、当時川本町で公民館長をされていた百田さんからの発案でした。そもそも川本町では農家で牧草地の雑草処理のため羊を飼っていましたが、その羊の毛は刈り取られた後は捨てられていました。
そこに百田さんは目をつけ「お年寄りたちの生きがい対策になるのでは」と考えたのでした。こうして百田さんの働きかけで地元の羊を利用した、高齢者の生きがいと心の健康対策として「手つむぎ教室」(1995年~)が開かれることとなりました。
初めは講師として月に一度程度通っていましたが、今は2ヵ月に一度くらいのペースです。最初は町内の15人だった生徒も「ダ・カーポ」への来店をきっかけに入会する方などもあり、その数は次第に増え今では35人になりました。
そのメンバーも広島や、浜田、平田在住と様々で、年齢層も幅広く30代~80代。まさに手つむぎを通しての世代間交流であり、様々な年代の人たちと共通の楽しみを通して色々な話ができたり、社会参加ができたり、それが生きがいとなり心の健康へとつながるのですね。なにより生徒の皆さんが一番いきいきしています!
■余談ですが・・・
羊や山羊との触れ合いには、人の不安感を解消し、リラックスをさせる癒し効果があるそうです。また、羊や山羊は人と共通の感染症が少なく安全で、犬と同様のアニマルセラピーとしての要素があるそうです。
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