山陰の輝く人物にインタビュー
山陰の元気人

山陰で頑張る人を取材し、紹介しています。



連載
島根県で一等元気な道の駅、キララ多伎の総務部長。
実は経験ゼロの「挑戦者」だった!
山本幸成さん

未知だからこそ面白い!
(VOL.22)

「日本の夕陽百選」にも選ばれている、島根県の道の駅「キララ多伎」。オープン以来、いつも人でいっぱいです。道の駅なのに、観光名勝みたいになりつつありますが、レジャー面はもちろん、ビジネスの面からも注目されています。なぜって、営業成績がとてもいい!不採算や赤字の会社が多い中、ここはともかく伸びています。

この優良企業の総務部長をしているのが、山本幸成さん。ですが、キララ多伎に就職するまでは、経理のことも総務のことも何にも知らなかった「素人」だったそうです。キララ多伎といっしょに、文字通りゼロから出発した彼に、好調の秘訣を聞いてみました


■プロフィール
氏名
山本 幸成
職業
キララグループ 多伎振興 総務部長
事務所
島根県簸川郡多伎町
仕事
キララ関連施設の管理など、いわゆる総務のお仕事。
URL
http://www.kirara-taki.co.jp/(キララH.P.)


■立地がいいから?

長距離を走るドライバー達のオアシス「道の駅」。この10年くらいの間に、またか、またかというくらいたくさんできた。島根県もしかり。だが、なんかさみしそうな道の駅、人気のない道の駅もちらほら。今は「道の駅、正念場にさしかかる」ってな時期かもしれない。

そんな中で、引っ切りなしに人が出入りし、お土産物がバンバン売れている道の駅がある。それが「キララ多伎」。収支データを見ても、黒字のケタが他の三セク*企業より一個多いのだ。
なんでこんなに成績がいいの?と少々興奮気味に聞いた記者に、山本さんは、とっても穏やかに答えてくれた。

「島根って横に長いでしょ。だから松江と浜田に営業所を持っている会社が多くあるんですけど、移動するとなると、けっこうな時間運転しないといけない。キララ多伎は、ちょうどその中間地点にあるんですよ。休憩にもってこいなんです」

なるほど立地か。それも重要な要素だ。でも、キララ多伎の愛用者である記者は感じていた。立地が好条件なだけではない、何か成功の理由がほかにあるはずだ、と。

でも、身を乗り出してその理由を聞き出そうとする記者に、あくまで山本さんは穏やか。
「最初はそんなに、期待していなかったのですよ」。
え?この道の駅、鳴り物入りでオープンしたんじゃないの?

 キララ多伎の売店。決して広くはないんですけど、楽しめちゃうんです。この日は平日でしたが、お客さんが買い物を楽しむ姿が見られました。なんか、魅力のある売り場なんですよね。
■目に見えないところ

意外そうな記者に、ほがらかな表情を向ける山本さん。あとで分かったことだが、山本さんの、この「穏やかさ」が、もしかしたら最大の成功要因であったのかもしれない。

キララ多伎がオープンしたのは、平成10年4月、株式会社多伎振興という第三セクターが経営を担った。そのときすでに、三セク事業の多くが赤字に陥っており、経営不振にあえぎ始めていたという。

「そんな状態でしたから、キララ多伎も、そんなに大きな売上は期待されていなかったんです。だから、規模も小さくスタートしました」。

そんな周囲の小さな期待を大きく裏切り始めたのは、5月連休を過ぎた頃。リピーターに愛される人気の道の駅として、大ブレイクするのである。
「ロケーションが、いいからでしょうね」
ちょうど5月の連休に休憩がてら訪れた人々が、眺めのよさを認めてくれたという。

キララ多伎からの海の眺めは、絶景。パノラマのように広がる日本海、海、海。春夏の頃、水平線に沈む得も言われぬ美しい夕日を見て、感動しない人はいないだろう。トイレ休憩だけではもったいない所なのだ。
にしても、やはり立地なのか、と思いきや、キララ多伎は、お客の目には見えないところで、ちゃんと仕掛けをしていたのだ。

*第三セクター=
国や自治体と民間が共同出資して作る会社のこと。略して三セクと呼ばれている。島根県内には、市町村が出資している主な第三セクターが100近くある。
■とにかく、いちじく

多伎町はもともと、地元民が行商でいちじくを売り歩いていたほどの、いちじく名産地。中でも規格外のため青果では販売できない果実は、JAと町が共同して、いろいろな加工品にしていた。しかし、これがなかなか売れない。だがキララ多伎で扱うようになって、お土産として売れ行きを伸ばすようになった。

売り場を見ると分かるけど、キララ多伎の売店は、全体がなんだか「いちじく色」。商品ポスター、包み紙、店内ポップまで、あわい赤桃色が使われている。その色に誘われて、ついついお買物してしまう、という不思議な雰囲気を持っている。
実はここの支配人が、某大型スーパーからキララ多伎に移ってきた人。商品をどこに、どんなふうに置いたら売れるのか、熟知している人なのだ。

山本さんは支配人を評して言う。
「とにかく、消費者の気持ちをよくとらえていますね。お客さんの気持ちになって売り場を見ています」
例えば、売れ筋のお土産菓子。
「このように、うず高く積むとよく売れるんです。売れそうにないからといって、少ししか積まないと、なぜだか売れない。こんなにたくさん積んで売れるのか、と思われるかもしれませんが、こっちの方が回転がいいんです」

それだけではない。キララ多伎のお土産物は、半端でなく、品数が多いのだ。
地元の主婦グループが開発した「いちじくソフトクレーム」をはじめ、いちじくシュークリーム、いちじく大福、干しいちじく、いちじく瓶詰めetc。いちじくづくしでお腹いっぱいになりそうな感じだ。とにかく、いちじくに関連した物産が山のようだ。

これほど品数をそろえているのは、お客さんに「選ぶ楽しみ」を感じてもらうためなのだという。JAが販売する本格的ないちじく加工品から、「アリバイ商品」と呼ばれる、キララ、いちじくという名前が入ったお菓子まで、多種多様だ。そんなに広くない売店スペースにもかかわらず、目移りしてお土産売り場を行ったり来たりしてしまう。記者などは、買うつもりがなかったのにもかかわらず、楽しく店内をウロウロした結果、2、3品を購入。キララ多伎の販売マジックに、まんまとはまってしまった。


山本さんおすすめの干しいちじく「たきのささやき」。食べてみましたけど、これ、お茶うけに最高です。


 おみやげのお菓子は、まさにいちじくづくし。シュークリームも大福もいただきましたが、食べやすくってつい2個、3個と口に入れてしまいます。海をながめながら食べると、格別かもしれませんね。
■もうひとつの、いちじく

売店だけでも、かなりの売上を上げているキララ多伎。その実力は、道の駅以外にも広がっている。名づけて「いちじくトライアングル」。
キララの回りには今、たくさんのレジャー施設が出来上がっている。平成7年開設の「いちじく温泉」、平成11年オープンの「キララコテージ」、これらと道の駅を結ぶと、ちょうどトライアングルのような形になる。そして今年、新たに「風の子楽習館」という施設が加わった。

「キララ多伎を拠点に、このトライアングルをお客さんにどう回ってもらうかが、いまの課題ですね」
中でもいちおしは、キララコテージ。小高い丘に立つログハウスやコテージ一軒一軒から、日本海の雄大な姿をのぞめる。好きな本と音楽でも持っていって、一日中ボーッとしていたい場所だ。現に、休日や行楽シーズンになると、コテージは予約でいっぱいになる。
いちじく温泉も健闘している。できてからもうすぐ10年になるが、とにかく施設がきれい。よく手入れされている感じがする。

むろん、施設を美しく保つのは、総務部長である山本さんの仕事。道の駅、温泉、コテージとも、多伎振興が経営母体なのだから、山本さんは、何ヶ所もの施設管理を一手に引き受けているわけだ。
ゴミ、砂ぼこり、タバコの吸殻、どの施設でも頭を抱えていることが、ここでも問題にはなっている。
「結構大変ですけどね。でも、スタッフがこまめに掃除してくれたり、きれいに保ってますよ」。
山本さんは淡々と言う。
記者は、キララ多伎やいちじく温泉のトイレに張ってある張り紙が、とても気に入っている。
『皆様のご協力により、当施設は清潔に保たれています。有り難うございます』

こう書かれると、もうトイレは、汚せない。

 上はキララコテージ、下はコテージ傍にある風力発電の風車。実はキララは、姉妹都市であるフィンランドの町をモチーフに作られたんです。だから風車があったり、北欧風のコテージがある。どれも、のどかな田舎の風景に馴染んでいます
■自然体の挑戦者
キララ多伎の正面にある海水浴場で、お客さんが安心して泳げるよう、ライフセービングクラブを作ったり、サーファーや海水浴客に海の様子を知らせるため、インターネットで海のライブ映像を配信したりと、新しいことにどんどん取り組んでいる山本さん。でも、彼はキララに来るまえ、歯科技術専門学校の教員をしていた。総務とはおよそ縁遠い人だったわけだ。

「当時、総務は私一人っきり。なんのノウハウも持っていませんでした。パソコンの使用経験も、事務仕事の経験もない。まったく一から勉強しましたよ」
こういうと、よほどバイタリティに富んだ人なのか、と思うが、山本さんは物腰のやわらかい、やさしげな人物。いや、そんな人柄だからこそ、知らないことを人に聞き、未知の知識をチュウチュウ吸収できたのかもしれない。

山本さんが、いま抱いている夢。それは、キララ多伎やコテージを中心に、島根周辺の旅行プランを考案すること。大勢で泊まればホテルより格安のコテージを利用してもらい、じっくり島根を見て回ってほしい、と思っている。


山本さんに、ずっとここにいる予定ですか?と聞いてみた。
「いや、分かりません。会社が、どこか他に行きなさい、というのなら、行きます」

うん、やっぱり肩に力が入っていない。これじゃなきゃダメなんだ!という頑固一徹もビジネスには必要だが、時には、なるようになるさ、と力を抜いてみるのも、成功の秘訣かもしれない。
山海に恵まれた島根県。山本さんやキララ多伎を見ていると、島根って、けっこういいところじゃん、としみじみ思う記者だった。過疎化だからって、悲観することないぞ。


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