山陰の輝く人物にインタビュー
山陰の元気人



連載
やりたいこと、思う存分やれる「働く形」を考案中。
ビッグボイス 代表 渡辺哲也
 これが未来の働き方だ!
(VOL.21)

  ここ山陰で、またまた面白い人を見つけちゃいました。ビッグボイス代表の渡辺哲也さんです。聞くところによると、島根県でのインターネットの草分け的存在だということですが、なんのなんの。そんな小さな枠に収まりきる人物ではありません。もっとおもしろいことを考えている人でした。

 ギスギスした会社社会に疑問を持ち、働くって何だろう?と悩み始めたあなた。渡辺さんの考え方に触れれば、きっと新しい何かが見えてきますよ。さあ、彼の考える「新しい仕事の形」に、思いをめぐらせてみてください。
小村進さん
プロフィール
氏名
渡辺 哲也
職業
ビッグボイス 代表
NPO法人 納川の会 副理事長
事務所
島根県大田市大森町
仕事
情報発信、まちづくり、
コーディネーターなど多彩
ホーム
ページ
http://www2s.biglobe.ne.jp/~chikyush/

■多彩で多才

渡辺さんは、私が持っている世間並みのものさしでは計れない人だ。だって、「お仕事は何ですか?」と聞いても、明確な答えは返ってこない。職種をたずねても、多岐にわたっているので、これ、というのが出てこない。ただ、一人でいろいろなことを手がけている「仕事人」には違いない。

 渡辺さんの手がけている仕事は、島根県内のホームページの新着情報を検索するサイト「ビッグボイス」の運営、企業や自治体のホームページ管理、町の景観提案、福祉専門学校の非常勤講師、NPO法人「納川の会」の副理事長、などなど。実に多彩な仕事ぶりだ。

 他人から見ると「個人で何だかよく分からないことをやっている人」かもしれない。だがそれは、渡辺さんのせいではなく、私たちが、彼の仕事を、世間の一般常識に当てはめて考えようとしているからだ。

ビッグボイスのホームページ。県内の企業や団体などが持つホームページが更新されたり、新着情報が載ったりすると、それを検索してきて公開します。これなんと、渡辺さんがボランティアでやっているサイト。なのに、けっこうな登録数を誇る一大サイトです。すごい。
■同じことはしない

 渡辺さんは小さい頃から10代後半まで、あちこちを点々としてきた。父親の仕事の都合だったり、自分の健康状態が原因だったりと、理由はまちまちだが、島根県内の中部、西部、そして大阪にも住んだ。

 そして17才の時、大阪から島根に、再びもどってきた。
 「渡辺さんが高校生のときですね」と何気なく口にしたら、こんな答えが返ってきた。
 「いや、私は高校には行ってないんですよ。登校拒否やってたくらいですから」。

 あの当時、登校拒否をするなんて、よほど気骨があったに違いない。原因は何?と聞いてみた。
「私、学校がきらいだったんです。だって、人と同じことをするように強いられるでしょ?」
 今でこそ個性重視と言われるようになったが、渡辺さんが子供の頃は、とにかく人と同じことをしなければならない、という考え方が根強かった。
 だが渡辺さんは反発。結果として学校に行かなくなった。

 それに、渡辺さんは小さい頃、母親からこう言われていたという。
「人と違ったことをやりなさい」。
 どうやら、この言葉が渡辺さんの原点になっているようだ。

 人と同じことはしないという哲学。だから常に、新しいことを手がけていく。多彩な仕事ぶりは、ここに理由があったのだ。

アートクラフトのホームぺージ
大森周辺の多種多様な人たちで構成される、NPO法人「納川の会」。納川とは中国の名言で、異質な川が多く流れ込む海ほど、美しい海になる、という意味があるそうです。実際、メンバーが話し合いをすると、意見がぜんぜん合わないことがよくあるそうですが、それでいいんだ、と渡辺さん。いろんな人がいるってことを認めてこそ、新しい世界が開けるのでしょう。
■すいすいコーディネーター

 渡辺さんの面白いところは、ただ複数の仕事をやっているというところではない。彼は、自分で仕事を「創出」してしまう人なのだ。

 例えば、渡辺さんの大きな仕事のひとつである、企業や自治体のホームページ管理という仕事。ふつう、こう言われて想像するのは、ホームページを更新したり、リニューアルしたりという作業だ。だが渡辺さんがやっているのは、そういうことではない。なにしろ、渡辺さん自身がホームページのデザインをやっているわけではないのだ。

 「どこの情報をどこに持ってきたら仕事がスムーズになるか、どの情報を公開することに意義があるのか、といったことを考え、やっているんです」。
 組織の大小に関わらず、必要な情報が必要な人に伝わっていないということが、会社や団体ではちょくちょく起こるもの。AさんとBさんの認識が違うため、仕事がさっぱり前進しない、なんてこともしばしばだ。そういう、人や情報のすれ違いを修復し、ものごとがすいすい進むような情報整理、伝達、アドバイスをするのが、渡辺さんの仕事なのだ。

 「私自身、会社に勤めていたことがありますから、そこでのノウハウを活用しています。会社って、細かいすれ違いや情報伝達の不具合がいっぱい出てくるところ。これを収集する人がいないと、業務が回っていかないんです」。

 人と人との間にある認識や情報のズレ、モレを解消し、スムーズに仕事が進行する環境を整えてくれる職種。コンサルタントともちょっと違う。アドバイザーもしっくりこない。「お仕事すいすいコーディネーター」なんて名前をつけたら、渡辺さん、気を悪くするだろうか。
 ともかく、既存の職種にはあてはまらない、新しい仕事を自分で見いだし、やっているのだ。

■脱!組織

そんな渡辺さん、いま、これまでの常識を覆す、新しい「働く形」を構想し、実際の仕事の場で実現したいと考えている。
 現状、働く形として最も多いのは、どこかの組織に属し、そこで様々な仕事をするという形だ。サラリーマンしかり。フリーやSOHOだって、下請けとして仕事をもらっているなら、立場はサラリーマンと大して変わらない。
 渡辺さんは言う。

「本来、組織というのは、ある目的を達するために存在するもの。それなのに、長いこと組織があり続けると、組織を守ること自体が目的になるという、という本末転倒なことが起きてくるんです。でもそれを変えるには、膨大なエネルギーが必要。そのうち、自分自身が組織に染まってきたりして。そんなことになるくらいなら、いっそ組織の外に出た働き方をした方がいいと思うんです」。

 ならば、渡辺さんが考える働き方とは、何なのか。
 「自分のやりたいことを中心にすえるんです。その内容によって、組みたい人を募り、その人達といっしょに仕事をしていく」。

 つまりこういうことだ。組織にいると、仕事が変化しても自分の役回りは変わらない。業務内容が変わっても、部長は部長、課長は課長、ヒラ社員はヒラ社員だ。だが渡辺さんは、仕事の内容によって、ヒラが部長に変わってもいい、と考えている。

 ある仕事については、自分は共同作業者の一人であっても、自分がやりたくて構想した仕事については、自らが責任者となり、共同作業者を募って作業を進めていく。ひとつの仕事にとどまらず、複数の仕事を、こんなふうに手がけていくのだ。

 こういう「働く形」の中では、いつも自分が主役だ。これまでは、組織が主役で、人はその中の歯車として配置される。でも、渡辺さんの構想する形なら、いつでも自分が中心。その分、責任も重くなるし実力も要求されるけど、上から下へ仕事がおりていく、という従来の組織の形からは自由になれる。

 渡辺さんは、自らが所属するNPO法人「納川の会」で、そういった仕事の形を実現したいな、と思っている。NPOも組織には変わりないが、これなら、組織のために、自分のやりたいことを曲げなくてはならない、なんてことは起こらなくなる。

施主に渡される写真
「納川の会」のメンバーが手がけた、老人ホームの前庭。渡辺さんをはじめ、異業種の方々がコラボレーション(共同作業)してできた、ちょっとおしゃれな空間です。こういう場所って、ふっと心を豊かにしてくれるんですよね。

 石見銀山の里、大森。渡辺さんは、大森の出身者ではない。たまたま以前勤めていた会社が大森にあり、それが縁でここに住み始めた。これまでいろんな土地に住んできた渡辺さんだが、いまは、大森を故郷にするのだと、心に決めている。
 「ここには面白い人がいっぱいいますよ。日本人として大事にしたいものもあります」。
 この地をもっと生き生きした場所にするため、まちづくりにも参画している。渡辺さんには今、やりたいことが山のようにある。

 渡辺さんの考え方には、きっと賛否両論あるに違いない。でも、これだけは言える。渡辺さんが構想する「働く形」に、私はドキドキした。ああ、こんなふうに働けたら、仕事が、人生がすごく面白いだろうなあ、と。日々安定した生活もいい。でもやっぱり、仕事でドキドキしたい!と思うのは、私だけではないはずだ。



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