山陰の輝く人物にインタビュー


連載


学生がベンチャービジネスに挑戦!
SHIMANE若者バーチャルカンパニーのみなさん

(VOL.15)

 
 不況、不況で、やる気を失ったかのような日本。なんだが、あきらめムードさえ漂っています。でも、そんな中で「新しくて、世の中の役に立つビジネスを始めよう」という人達が、島根県にいます。それが、「SHIMANE若者バーチャルカンパニー」のメンバー。彼らはなんと、島根県立大学(島根県浜田市)の学生さんです。学生でいながら、ベンチャービジネスに取り組み始めた彼らを、取材しました。

バーチャルカンパニーメンバー



↑SHIMANE若者バーチャルカンパニーのメンバー。全員、島根県立大学の学生さんです。取材に行くと、みんな自前のパソコン画面に向かって作業中。ベンチャーって感じがしました。


きっかけは大学の授業


 SHIMANE若者バーチャルカンパニーは、島根県立大学の学生10人で構成される組織。さまざまなベンチャービジネスを運営するために結成された、いわば学生起業家の寄り合い会社だ。といっても、まだまだ会社というほどにはなっていない。何しろ、本格的に立ち上がったのがほんの2週間前。活動を始めたばかりなのだ。

 そもそものきっかけは、彼らが県立大学で受けている、ある講義だ。バーチャルカンパニーのメンバーは全員、この4月に開講した「ベンチャービジネス論」の受講生。先生が話し、学生が聞く、という紋切り型の講義ではなく、実際に、学生にビジネスを体験してもらうのがこの講義の特徴だ。教授は、東京、山口県などで、こうした形の講義を成功させてきた片岡勝さん。これらの地域では、学生が実際にビジネスを考案し、動かしている。

 県立大学でのベンチャービジネス論講座も、学生がベンチャービジネスを立ち上げ、運営していくことを目的に開かれた。最初は、少し風変わりということもあり、100人近い学生が初講義を受けたが、だんだんと受講生は減り、最終的に残ったのが、いまバーチャルカンパニーのメンバーである10人。つまり彼らは、ベンチャービジネスに「本気で取り組もう」と思った、少数精鋭なのだ。

 スタートを切ったばかりの彼らだが、ビジネスに一番必要なものはちゃんと持っている。それは「アイデア」。それも、ただお金もうけをするためのビジネス・アイデアではない。彼らがやりたいのは、「社会貢献」「地域活性化」「商売繁盛」の3つをかなえるベンチャービジネスなのだ。

 さて、バーチャルカンパニーで彼らがやりたいこととは、何か。


「農業を発掘」「世界平和を実現」したい


 ベンチャービジネス、というと、目先の変わった新商売、という印象がある。しかし、バーチャルカンパニーのメンバーがやりたいビジネスには、社会の役に立つ、という要素が必ずどこかにそなわっている。

 「うちらは世界平和をテーマにしてたんだけど、そんなとき、ベンチャービジネス論を通して出会ったのが、フェアトレード。ビジネスで世界平和がかなえられれば、と思った」と、メンバーの一人である女子学生。彼女たちはすでに、島根大学の学生が運営するアンテナショップ「やっちゃらや」(松江市)で、発展途上国の特産物などを販売している。

 フェアトレードとは、特に発展途上国の国々から輸入するものを、適正な価格で仕入れる貿易のあり方。不当に安い値段で途上国の物品を買い叩き、輸入するというこれまでの貿易を反省し、正当な金額を払うことで、途上国の人にも経済力をつけてもらい、人間らしい暮らしをしてもらおうというものだ。

フェアトレードのメンバー
 ↑フェアトレードをベンチャービジネスとして立ち上げた女性メンバー。アンテナショップ「やっちゃらや」に、彼女たちおすすめの商品が並んでいます。

 
 「ぼくは、地元の安心で安全な農産物を発掘して、もっとたくさんの人に知ってもらいたいと思っています」と、別の男子学生。彼らは「農業発掘プログラム」と題したビジネス計画を進めようとしている。日本全国、同じ有名ブランドのしょうゆ、マヨネーズを使っているのは、なんかおかしい。地元の養鶏農家でとれた卵を使った、おいしいマヨネーズを食べたい、そして販売したい。そのために「まずは、県内の農家を訪ねて、農業体験してみようと思います」(男子学生)。

 学生が出す不用品、中古品を、学生の間で再使用していこうというリサイクルプランを考えるメンバーもいる。県立大学は、1年生の8割近くが寮生。だが1年で寮を出てしまうため、不要になった生活用品がどうしても出てしまう。これを捨てるのではなく、学生の間で売買したり、交換することでゴミを減らし、同時に、こんなしくみを持っていることを大学の自慢、ステータスにしよう、というプランだ。

楽しい面々
 ビジネス、というと、肩に力が入ってそうですが、彼らはとても自然体。ベンチャービジネスのプランについて、自分達の言葉で話してくれました。それぞれ個性があって、見ていてとっても楽しい面々です。
 中には、ものすごくユニークな発想を持つ学生もいる。「ぼくは最初、銀を使った社会システムを考えてました。例えば、販売機で売るジュースの容器をすべて銀製にして、それを特定のリサイクルボックスに返すと、その日の銀レートによってお金が返ってくるとか。そしたらゴミもなくなるかなあ、と」。

 結局、この構想はボツになったが、彼はそれをもとに、地域だけで通用する通貨制度「DOMO(どーも)」を考案中だ。


シンポで社会人の賛同者も


 彼らはこうしたさまざまな計画を、7月3日に開いた「産官学シンポジウム」で、多くの社会人、企業家、学生に披露した。シンポには約100人が集まり、山陰で活躍中の事業主や、公的機関の所長クラスも足を運んでくれた。反応は?という質問に、バーチャルカンパニー代表の富永誠士さんは、こう応えた。

「まだまだ、ぼくらの計画が甘かったこともあり、具体的なビジネスの話にまでは至っていません。でも、賛同してくれたり、協力を申し出てくれた社会人、学生たちはいました」。

 彼らにいま欠けているのは、会社経営のノウハウや、経理の知識。自分たちのアイデアを形にするため、こうした具体的な技能はどうしても必要だ。それを、社会人や、そうした知識をもつ他の学生に求めている。「ほんとに、ぼくらに協力してくれる人を求めています!」
シンポの様子

7月3日に開かれたシンポジウム。社会人、学生入り乱れる中で、ビジネスアイデアを披露しました。このシンポのおかげで、彼らは貴重な人脈を得たようです。


アイデアはOK、実現はこれから


 富永さんは、松江市にある「やっちゃらや」のようなアンテナショップを、浜田市にも作りたい、と考えている。彼らのアイデアをもとに、浜田という地域から、新しいビジネスを発信したいのだ。

 バーチャルカンパニーはいま、浜田市の「石見産業支援センター(いわみぷらっと)」にオフィスを準備中だ。ここを、ベンチャービジネスの拠点にしたい、と富永さんは思っている。

 彼らは、先に学生ベンチャービジネスに取り組んでいる山口大学の学生と、インターネットを使った遠距離ミーティングをしたり、島根大学の学生と情報交換しながら、日夜活動を続けている。もはや授業をはなれたところで、彼らはベンチャービジネスの成功に向けて動いている。


 「すべては、これからなんですよ」(富永さん)
 アイデアは固まった。それを実現させていく段階に、彼らは差しかかっている。

 淡々と、確実に計画を進めていく彼ら。でも、どこか楽しそうで、うれしそうだ。彼らを見ていると、何かいっしょにやってみたいな、とワクワクしてくる。彼らは、そんな期待感を抱かせてくれる、素敵な若者たちなのだ。

SHIMANE若者バーチャルカンパニー
代表=富永誠士
オフィス=石見産業支援センター「いわみぷらっと」
島根県浜田市相生町1391番地8
E-mail=tom11001302@policy.u-shimane.ac.jp



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