山陰の輝く人物にインタビュー
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連載
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一軒の家が社会を変えるって信じられる?
でも、それもあながち夢じゃないぞ、と思わせてくれる人 町の建築家が実現する、触れ合いのわが家! |
(VOL.20)
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■マイホームを知っているか | |
あなたは、自分の家について、どれくらい知っているだろうか。家に使われている木に、どれほど職人の思いが込められているか、そしてそれを組み上げていく人たちに、どんな人間ドラマがあるのか、知っているだろうか。答えは「ノー」だろう。いや、無理もない。今はそれが当たり前なのだから。 |
家を、デザインや形だけで選んでいませんか?見た目の良い家は素敵ですが、そこに人間らしさが入っていなければ、何かもの足りない。小村さんは、現代建築に欠けているものはコミュニケーションだ、と私に語りかけてこられました。 |
■建てれば建てるほど地域が壊れる? | |
「昔は、まず棟梁(とうりょう)がいて、この人を中心に、畳屋、木材屋さんなどの職人が手配されていました。そして、これらの職人がそれぞれ、お客さんと直接契約を結び、商談をしていたのです」 |
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■「心通う家」、発進。 | |
小村さんは昨年、自らの思いを実現する、ひとつの企画を立ち上げた。「住まい塾の家」だ。もともと、家について消費者が理解を深めるためのセミナーで、小村さんが理想とする昔の家造りや、住宅の基礎知識について参加者に語っていた。だがそのうち、「あなたの言う方法で家を建てたい」という参加者が出てきた。現在、7棟の注文が舞い込んでいる「CM方式」というこの家造り。これまでとはひと味もふた味も違う。 「施主さんにも、専門業者にも、現場でどんどん会話をしてくれ、と言っています。話し合いのために作業が多少止まったっていいんですよ。そのやりとりが大事なんですから」 専門業者は、いわば職人の集まり。それぞれの仕事に人方ならぬ思い入れを持っている。施主はそれに触れることができ、家についてもおのずと詳しくなる。業者にしても、施主と相対しているという緊張感から、仕事に熱が入る。買い手と作り手の気持ちが通う家造りプロセスが、ここにある。 |
アートクラフトのホームページにある住まい塾のページ。左横が、施主への説明会の様子です。専門業者がずらっと並んでいますね。いまや、なかなか見られない光景のようです。 |
■名もない職人たちの写真 | |
専門業者と消費者をつなぐため、小村さんがやっていることが、もうひとつある。 小村さんはお客さんの代わりに、足しげく現場に通い、そこで働く人たちの写真を撮るのだ。 例えば、基礎工事に必要な鉄筋を運んできたおじさん。足場を組みにきたヤンキー風のおにいちゃん。普通なら、決して顧みられることのない人達だが、この人達がいなければ、家はできない。 「わしでいいんか?と恥ずかしそうにする人、顔を真っ赤にして写ってくれるお兄ちゃん、とにかく現場に関わった人全員を撮影します。この写真を、施主さんに見せるんです。涙を流して喜んでくれた施主さんもいましたよ」 家は安い買い物ではない。だからこそ、誰がどんなふうにして造ってくれたのか知りたい。造る側にとっても、自分の努力や仕事ぶりが施主に伝わるのはうれしいし、気持ちが引き締まる。 小村さんが撮影する写真は、現場で働く人を写した、ごく平凡なものだ。だが、施主の中では、間違いなく思い出の1枚となっている。 |
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■大家族のような集合住宅 | |
小村さんは、「住まい塾の家」による一戸建てのほか、集合住宅も手がけている。最近話題になっている「コーポラティブハウス」だ。既製のマンションを購入するのではなく、そこに住む人が話し合いながらマンションを作っていくという形態の集合住宅だ。望み通りの住まいができる、価格的に納得できるものが手に入る、というのが利点だ。 しかし小村さんが見ているのは、そうした目先の効果だけではない。 「コーポラティブハウスを作るには、住人同士が何度も話し合いをしなくてはなりません。そんな中で、みんな家族のようになっていくんです。だからマンションが建ったあとでも、住人みんな知り合い。隣は誰が住む人ぞ、なんてことは起きないんです」。 コーポラティブハウスとは、単なるマンションではなく、ひとつのコミュニティ。まさに、いま失われつつある、地域の風景がここにある。醤油を貸し借りしたり、子供の面倒をちょっとだけ見てもらったり。毎日顔を合わせるわけではないが、困った時は家族のように心配し合い、助け合う。いまの世の中にとって、まさに理想だ。 |
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地域の崩壊、社会の弱体化、いやなニュースがいっぱいある中、小村さんの住まい造りには、確かな希望の光が見える。人は、人に認められ、必要とされてこそ、人間らしく生きていける。それを体験させてくれるのが、小村さんの家造りだ。うん、一軒の家から、社会を変えることって、できるぞ! |
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