■もともとは修理業 |
有限会社ネクストは、松江、出雲、三刀屋に全4店舗を持つau携帯電話の販売代理店だ。特に松江市学園通りにある「エーユーステーション松江」は、見た目からして「でかい!」という感じ。とにかく、外観がとっても目立つ販売店だ。
ネクストの親会社は、松江三和部品商会という、自動車部品を扱っている会社。なんで車部品から携帯電話に?との問いに、木村さんはこう答えた。
「10年くらい前に、三和部品商会で、携帯電話の修理をしていたんです。それがきっかけ。その2年後くらいに、携帯電話の販売ビジネスを始めました」
携帯電話のシェアは現在、NTTドコモが5割強を占め、残りをau、ボーダフォンなど数社が分け合っている状態。特にドコモは、携帯電話のブランドとして君臨していて、他の会社がこの牙城を突き崩すことがなかなかできない。ドコモが王者なら、auはさながら挑戦者。なぜ王者ではなく、挑戦者の販売代理店を選んだのか。
「三和部品商会の社長が、挑戦者の立場が好きなんです。あえてチャレンジャーとなり、追い上げをかけていく、みたいなところがあるみたいですよ(笑)」
守りより攻め。そんな社長と、社長に引き抜かれてネクストに来た凄腕マネージャー、木村さんが展開する携帯電話ビジネス。そこにはやっぱり、他にはなかなか真似のできない秘けつがある。
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まず目に飛び込んでくるのは「au」の大きな看板。店舗のガラス窓には、おすすめ機種の絵がど~んと貼られています。分かりやすくていいです。店の中も広そうな感じがして、入りやすい雰囲気です。 |
■折り込みチラシはあまり打たない |
新聞の折り込みに入ってくる携帯電話の広告。これでもか、というほど何度も入ってくるので、それが販売店の常識的な戦略なのかと思っていた。だがそうでもないようだ。少なくともエーユーステーション松江では、年に2、3回しか自社広告を打たない。
代わりに頻繁に発行しているのが、店スタッフ手作りの「ニュース」。A4サイズ1枚に、おトク情報や機種紹介が載っている。
載せる内容からレイアウト、プリントアウトまで、すべてがスタッフによるもの。手製感いっぱいのチラシだが、字が大きくて読みやすい。細かい説明も省いてあり、店側が売りたい機種に絞って商品が掲載されている。
ニュースは、店頭に置いたり、カタログにはさみ込んだり、各家庭のポストに入れる「ポスティング」によって配布している。多いときには5000部近くを印刷するが、ポスティングをするのも同店のスタッフ。外注はしていない。
「時には、冬の寒いときにポスティングして回りますよ。だから、そのチラシを持ってお客様が来店されると、すごくうれしいです」(木村さん)。
中央からの既成情報という感がある折り込みチラシ、かたや、完成度は低いものの店の個性が伝わってくる手作りチラシ。即効性があるのは折り込みだが、継続的な効果が期待できるのは、手作りチラシの方だと木村さんは言う。
「価格表記があると反響が大きいので、値段的なところをきちんと入れたり、あと、うちはひな祭りや子供の日など、行事にちなんだプチサービスが好きなので、それとリンクさせたりしています」
携帯はとかく、価格の安さだけを求められがちだ。そんな中でも、顧客の心をいかにしてつかみとっていくかという工夫が必要。ニュースは一見、地味な広告のように見えるが、派手できれいならば顧客の注目を集めるのか、というと、そうでもない。手作りだからこそ、伝わるものがあるのかもしれない。
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エーユーステーション松江が発行している、auステーションニュース。オール手作りです。
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■笑顔が出るかどうか |
各店の店長が組織の「縦ぐし」なら、木村さんは、4店舗の「横ぐし」的な存在だ。以前、木村さんがエーユーステーション松江を離れて仕事をしていた時、同店の販売成績がガクンと落ちたことがある。
「社長から、店の売り上げを上げろ、と指示されたので、店内のディスプレイ、接客などをすべて見直し、一機種にしぼって販売する戦略をとりました」。
むろん木村さんは、店の販売成績を上げるという使命を果たしたわけだが、それにしても、販売成績の善し悪しを決めるポイントは、一体どこにあるのか。
うーんと考えたあと、木村さんはこう答えた。
「笑顔が出るか出ないか、ですね」
来店客には大きくわけて2タイプあるという。最初からこの携帯電話を買うんだ、と決めて来ている人、いろんな会社とauを比較しながら購入を検討している人だ。
「例えば、お客様をお見送りするとき、『ありがとうございました』と笑顔であいさつされるのと、ただ何となくあいさつされるのと、どちらが気持ちいいですか?」
ちょっとしたことだが、これがあとでボディーブローのように効いてくる。購入を検討していた人が、再び同店を訪れてくれる確率が高くなるのだ。
木村さんに、特別な社員教育をやっているのか、と聞いた。
「いいえ、私は何もやっていませんよ(笑)。スタッフや店長がいろんなサービスや販売方法を考えてきますけど、それについてとやかく言うこともありません。まず、思いついたことを自由にやってもらいます」
やった結果、よくないものはやめる、いいものは続ける。アドバイスが必要ならする。そうやってスタッフそれぞれが考えて行動することが、何より重要なのだと木村さんは話す。
「でも、何も言わないから却って怖い、という部分もあるでしょうね」
確かに、何も言われない方が、緊張感が保たれるかもしれない。
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天井が高く、開放感のある店内。いろいろな機種がタイプごとに並んでいますが、このディスプレイも全部スタッフが考えるとか。

時々、こういうかわいいものが飾ってあります。女性が喜びそうですね。 |
■数字とコミュニケーションが成功のカギ |
木村さんのもうひとつの仕事は、携帯の販売台数を調整すること。数字を操る仕事だ。
各店舗が好成績を挙げられるよう、機種による契約目標数を設定したり、商品を都合しあったりする。そういう、物と契約数の動きを監視し、最適な販売実績を作り上げるというノウハウを、木村さんは持っている。
数字という極めてシビアな世界に身を置きつつ、木村さんは「結局はコミュニケーションが大切だというところに行き着く」という。
「これからの携帯電話業界で生き残っていけるのは、何社もの携帯電話を安く扱う大型家電店と、私たちのような専売店だと思っています」
専売店には、専売店にしかできないことがある、という。例えば、修理、解約手続き、料金の支払いなど。そのいずれの場面でも、顧客とスタッフが直に顔を合わせたり、話をしたりする。人と人とが相対する場で、いかに顧客の気持ちをキャッチすることができるか。これが、生き残りのカギのようだ。
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auの携帯がズラリ並んだコーナー。見ているだけで楽しいです。 |
同店のディスプレイは、楽しい。いろいろ携帯を触って遊んでみたくなる、そんな店舗だ。多くの消費者は依然、1円でも、100円でも安く携帯電話を買いたいと思っている。そんな価格競争の渦中にいながらも、コミュニケーションという付加価値を追求する。地味なようだが、それが同店の底力になっているのかもしれない。
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